失敗したら
イエーイ
旅する演出家
聞くひと
イエエエエエーーーーイ!!!
中谷
世莉さん、以前のインタビューで「いまなに感じてる?」というテーマがありましたね。
黒澤
はい。
中谷
こちらの最後に「失敗を恐れずに、感じたことを口に出したらいいじゃない!失敗したらイエーイだよ!」って仰っていたんですけど、この「失敗したらイエーイ」っていうのも、そういえば稽古場でよく聞くなぁと思ったので、ご説明いただけますでしょうか。
黒澤
…いえーーい…
中谷
失敗したら、いやじゃないですか。
黒澤
イエエエエェェイ。
中谷
……。
黒澤
…イエエエエエーーーーイ!!!
中谷
………?
黒澤
ってことですよ。
中谷
…………。
黒澤
…嫌ですか?
中谷
えええ?(笑) できるだけ失敗せずにいろいろやっていきたいなって、思いますけれど。
黒澤
そうだよねぇ。それはそうだ。ごめん、俺もそうだわ…。
だけど、失敗を恐れてるとすげぇ窮屈じゃない?生きてて。
中谷
まあそうですね、「一回失敗した途端にお前は死ぬ!」とか言われたらもう何もできなくなっちゃいますもんね。
私達は失敗する
黒澤
僕たちが生きている社会って、ちょっと失敗に対して不寛容だって思ってて。それってなんか、僕たち一人ひとりの中でもその「失敗してはいけない」みたいなことが内在化されてる気もするんだよね。
例えばマスメディアが失敗したものを苛烈に叩くみたいなことも怖いけど、クラスで失敗したことを叩かれる子が出る、みたいなことも怖いし。そういうことを経験したからか、僕たち自身も失敗をすることにすごいを怖れを抱いてしまっている。
たとえば受験みたいな大きいこともそうだし、もうちょっとちっちゃい例えで言えば「稽古場へ持って行った自分の役のプランが果たして演出家のお眼鏡に叶うだろうか、ドキドキ」とか、「私が読んだ台本の読み筋がとんちんかんなことなってないだろうか、ハラハラ」みたいなことも含めてすごく居心地が悪い窮屈な思いをしがちだと思います。
そういうのって全部クソくらえだと思うんですよね。「どうでもいいじゃん!」みたいな。だって失敗するもん、私たちは!失敗するために稽古もしているわけだし。
社会がね、失敗を許してくれないとか、それが自分の中で内在化されてしまって自分も失敗をなんだか許せないみたいこともあるかもしれないけど、そこはみんな失敗に寛容になりましょうよ、と。その方がみんな楽しいんじゃないかって僕は思っています。
例えば演劇のワークショップをやられますよね、弥生さんも。
中谷
はい。
黒澤
ワークショップでもいろいろとやられると思うんですけど、例えば鬼ごっこみたいな簡単なゲームをやっていて、捕まっちゃったら「お前何で捕まったんだ!!真面目にやってんのか!!もっと頑張って逃げろよ!!!」って言われるのと、「あああー捕まっちゃったねウエエエイ!!よおおし、今度は逃げるぞぉ、うわああああい!!!また捕まっちゃった、すごいなんか、いいね!頑張ってるけどうまくいかないね!!チャレンジ、したね!!」っていうのと、どっちがやりやすいかって話です。
中谷
あの、後者の方が雰囲気が良さそうですね、とても。
黒澤
俺はいちいち失敗を責められるのって嫌だなって思うし、そういう場所で自分のクリエイティビティが発揮されるような気はまったくしないなって思います。
失敗はクリエイティビティの素
黒澤
お互いの失敗に対して寛容な場って、何がいいかっていうとチャレンジが増えるんですよね。失敗を恐れちゃうと無難な選択肢になりがちなんですよ。これはワークショップでもそうだし、あらゆる演劇とか研究とか会社のプロジェクトでもそうだと思います。
例えば会社でプレゼンの資料を作っていて次のプランを提案する時に、ちょっと独特なこと言ったら「お前はなんか、突飛なことをこと言うね!」「いつまでも学生さんだね!」みたいな嫌なことを言われたら次から意見を言う気もなくなるじゃないですか。
中谷
なくなりますねぇ。
黒澤
でも、そういうちょっとズレたアイディアみたいなことが100個重なっていくと、1個ぐらいすごいいいアイディアが出ると思うんですよ、僕は。
そしてプロジェクトの成功のためには、そういうのがすごく大切なことだと思ってるんです。
自分がちょっとズレたことを言ってもこの場では皆がしっかり受け止めてくれるんだっていう信頼関係があるから、居心地がよくてパフォーマンスも発揮できる。だって安心できるんだから。
人間が安心してそこの場にいられるって事はとても大切な事なんですよね、こと演劇をする時に。というわけで、失敗をしたらむしろほめる。だってチャレンジするから失敗するわけで。
失敗しないように無難なものばっかり選択するよりも、ちょっとはみ出ちゃったりおかしかったりしたとしてもそういうチャレンジをした方が次とかその次、その次の次とか、その100回あとの成功に繋がることが絶対にあるから。
それをその人だけじゃなくてみんなにもちょっとずつ体感してもらいながら伝えることができるから失敗する事って本当に素敵なことだし、失敗してくれてありがとうだし、「失敗する勇気をもって取り組んでくれてイエーイ」っていう感じだと思うんですよね。
中谷
先ほど例に出してらっしゃいましたけれども、例えばワークショップのエクササイズの鬼ごっこであったり、言ってしまえばそういう小さなものであれば楽しく失敗をできると思うし、失敗したところでそれを心からの失敗だと本人も捉えずに済む領域だと思うんですね。
これがシーンスタディだとか戯曲の解釈の話になった時に「まあ失敗してもいいや!」「気にせずいこう!」って思えるのにはすごく時間がかかる、ないし難しいと思うんです。
失敗してもいいからやってみようって、自分で意識できるようになるためにはまず何から始めたらいいでしょう?
黒澤
自分を好きになることじゃない?
中谷
うおぉう。
失敗できる場所を大切に
黒澤
自己肯定感とか自己効力感という言葉がありますけど、1回や2回の失敗が自分の価値を毀損しないし、いつかチャレンジは報われるっていうことをしっかり自分で認識できることがもっともその人にとっての助けになることだと思います。
その自己肯定感や自己効力感を持っていくっていうのがなかなか課題として難しく思う人もいると思うので、そういう環境に長く身を置くことをおすすめしますね。
中谷
そういう環境とは?
黒澤
「失敗したらイエーイ」という環境に長く身を置くことをおすすめします。
弥生さんは「人に迷惑をかけるな」って言われて育ちましたか、それとも「人に迷惑をかけてもいいよ」って言われて育ちました?
中谷
それはもちろん「迷惑をかけてはいけないよ」って言われて育ちましたね、家でも学校でも。
黒澤
日本ではそう言われることが多いと思うんですけど、インドでは「人に迷惑をかけてもいいからお前も人に迷惑をかけられても許せ」という教育なんですよね。
中谷
なるほど!日本とは真逆だけど素敵ですね。
黒澤
なんでもかんでもインドがいいとは思わないですけれど、ただインドはカレーの国ですし、そこにある種の真実はあると思うんです。
中谷
……ちょっと一部よくわかんなかったけど、なるほど…。
黒澤
演劇の現場なんかだと特にそのインドっぽさがあったほうがいい方がいいと思っていて。我々は失敗をする、と。たくさんの失敗を重ねる中で、すごく素晴らしいものが生まれたらそれをどんどん取り入れていこうということを、チームとして共有できる場所があるといい。
それが安全な場所だったりチャレンジングな場所だったり、角度を変えて見ればクリエイティブな場所なんだと思うんですけど、そういう場所を自分でなるだけ上手に見つけて、そこに長くいるようにした方がいいと思いますね、自分自身の自己効力感、自己肯定感を上げるためには。
中谷
まずはそういう心理的に安全だなと思える場所を探すところからが第一歩だということですね。
黒澤
だから見つけたらなるだけ大事にした方がいいかなーと思います。なかなかね、そういう場所がいっぱいあるわけじゃないからね。
中谷
そういう面では、私は長らく世莉さんの現場でご一緒させて頂くことができたので「結構変わったな」って、自分でも思っています。
黒澤
やぁ、よかったです。やっぱり失敗をすることに自信が持てるようになると、いろんなことが楽になるので。
「まぁ大丈夫か」「死なねえや」とか、あと「自分はこんだけ準備したからこれ以上はできないし、まあいいよ、これが限界だよ」みたいな風に折り合いがつけられると、いろんなことに対してフラットに取り組めるようになるから、僕はその方が生きやすいんじゃないかなと思うし、結果として自分の能力を上限まで発揮できていいんじゃないかな。
中谷
これもまた演劇に限らず人生に通じそうだな、と思えるような言葉でしたね。ありがとうございました。
黒澤
ちなみに「失敗したらイエーイ」っていうのは、昔
にいた鈴木浩司先輩っていう俳優が…中谷
ああ!!浩司さんの言葉だったんですね!そうか、そうなんだ!
黒澤
元は鈴木浩司さんの言葉でしたね。
中谷
それでは、ご存知の方は鈴木浩司さんの顔を思い浮かべながら…。
黒澤
浩司さんが「イエーイ!」っていう姿を想像して頂いて。
中谷
浩司さんを観たことがない方は、観劇三昧※で時間堂の作品を探していただければ、ご覧いただけますね。
(※観劇三昧 時間堂作品一覧 https://v2.kan-geki.com/theatre/site/48 )
黒澤
ありがとうございました!