演出作品

時間堂『ゾーヤ・ペーリツのアパート』

2016.07 東京芸術劇場シアターウエスト

演出:黒澤世莉
劇作家:ミハイル・ブルガーコフ(翻訳:秋月準也)

第9回小田島雄志・翻訳戯曲賞受賞

撮影:保坂萌

作品概要

初演当時198回上演されるほどの爆発的な人気を誇りながら、たった3年で発禁になったブルガーコフの超・問題作、日本初演。
1920年代、ソビエト連邦―個人の自由が厳しく規制され監視される世界。
革命により財産を失ったゾーヤは「縫製アトリエ」を開く。
その正体は、絢爛豪華なマネキン嬢が夜ごとに歌い踊る「娼婦の館」。
元貴族、詐欺師、成金商人、麻薬密売人、汚職役人、死体男たちが入り乱れ、札束と裸体が飛び交う、狂騒と幻想のブラック・コメディ。
すべては、突然破綻する。

出演者

菅野貴夫 Takao KANNO
鈴木浩司 Koji SUZUKI
直江里美 Satomi NAOE
ヒザイミズキ Mizuki HIZAI
阿波屋鮎美 Ayumi AWAYA
松井美宣 Minori MATSUI
尾崎冴子 Saeko OZAKI
國松卓 Taku KUNIMATSU (以上、時間堂)

東谷英人(DULL-COLORED POP) Eito AZUMAYA
綾田將一 Shoichi AYADA
五十嵐優 Yu IGARASHI
海老原恒和 Tsunekazu EBIHARA
大川翔子 Shoko OKAWA
木山廉彬 Yukiaki KIYAMA
佐藤幾優 Ikuma SATOU
白石花子(劇団民藝) Hanako SHIRAISHI
中谷弥生 YayoiNAKATANI
堀田創(ECHOES) So HORITA

得丸伸二(文学座) Shinji TOKUMARU

劇場

東京芸術劇場シアターウエスト

日程

2016年7月29日(金)~31日(日)

黒澤世莉の振り返り

ソ連の作家ブルガーコフの奇天烈な戯曲を芸劇で上演しましたねえ。やたら気合入っていたことを覚えていますが、ちょっとがんばりすぎて関係者には負担をかけすぎたなあと反省しています。当時のみんな、つきあってくれてありがとう。演出もエッジ効いてると思いますが、私のエゴと言うよりは作品の要求かなあとは今振り返っても思います。このとき稽古場で俳優に負担をかけすぎるのは効果的ではないと学んだので、稽古は余裕を持ってやるようになりました。これまでは緩めたり負担をかけたり波がありました。

過去に書いた肩に力の入ったテキストを貼っとく。こっぱずかしいね。

『ゾーヤ・ペーリツのアパート』は「何か大きな力」で捻じ曲がった世界の話だ。これには二つの意味がある。

物語はドタバタブラックコメディだ。厳しい管理社会であるソビエト政権下で、ゾーヤ・ペーリツをはじめとする登場人物たちが自由を求めて亡命しようとすったもんだした挙句、あっけなく失敗する。登場人物のほとんどが権力に屈し、渇望するものが得られない、という「フィクションの中で働く力」がひとつ。

もうひとつは、作家ブルガーコフが現実の世界で、物語の筋はもとより、四幕物だった構成さえ三幕にカット、改変させられたこと。検閲とクライアントという二つの「現実の中で働いた力」によって、この戯曲は形を変えられた。

世界というのはそもそも「何か大きな力」で捻じ曲がったものだ。ソビエト時代のロシアだ けではなく、いまの世界も、現代の日本だって、私にとっては捻じ曲がっているように感じられる。その意味で、本作は見事に真実を切り取っていると言える。

もちろん、実際に「何か大きな力」に蹂躙されたひとと、その体験がないひとの間には、埋められない溝がある。しかし、俳優の身体とブルガーコフのテキストを通じて、二重に捻じ曲げられた世界で必死に生きる人間たちを、演劇として共有した瞬間、劇場でどんな体験が起きるのか。

想像力の限界を超えて、埋められないはずの溝を越える奇跡を、演劇という。我々がつくろうとしている作品はそういうものだ。